アブサロム、アブサロム! - ウィリアム・フォークナー

でもってもうひとつ。ゆっくりゆっくり読んでいたら、結局読了までに1年近くかかってしまった。
アブサロム、アブサロム!(上) (講談社文芸文庫)
アブサロム、アブサロム!(下) (講談社文芸文庫)
そもそも中上健次がすきで、その流れでよし挑戦してみようとした初フォークナーがこれ。はじめは読むのが苦痛でしかなかった。

突然現れる鮮やかな比喩だとか、ものすごい勢いで頭に流れ込まされる独白だとかそういったものに助けられ、いつのまにやら中盤をすぎて、トマス・サトペンの生い立ちが語られる辺りからはいっきに面白くなった。文体*1に対する慣れというのももちろんあるのだろが、物語の全体の構図がおぼろげながら把握できるようになって来たのもこの頃だった覚えがある。やはりそれが一番大きかったんじゃないかなあ、なんて思い出す。

「物語」とはが何かと問われれば、迷うことなくこの「アブサロム、アブサロム!」をいちばんに挙げるだろう。ほんの一片の描写が広大な空間をまたぎ、何世代にもわたる時間が一瞬で目の前を通り過ぎる、そんなことを感じさせる力を持つことが「物語」であるということではないか。むせ返るほどの血の、地のにおいを感じさせることが「物語」であるということではないか。

*1:ちなみにほんとうは上に挙げた文芸文庫版ではなく、「集英社ギャラリー」とかいう世界文学全集みたいのに入ってた篠田一士の訳で読んだのだが