なんだか濃いものが煮立っているわりに、あらすじだけ追うとこれ、ラノベにだってできそうな気がするぜ!なんてキャッチーさも持ち合わせてくれている一冊。
訳者による解説*1にもあるとおりまさに重層的な小説で、そのことがおおきな魅力の一つとなっていました。当然のことながら人間でない知性とのコンタクトをめぐる物語であるには違いないのですが、そこに科学にたいするパロディやラブロマンス、精神分析やら存在論やらが出たり入ったりする。そしてそれらは、それぞれがくっきりと現れながらも分離することなく、見事に組み合わせられているといった具合なのです。
そんなわけだからこの小説に関してはことさらに、心を動かされてしまう部分ってのは人それぞれなんだと考えずにはいられません。
僕にとってどうだったのかといえば、全体を通してみるとやっぱりこれはSF以外のナニモノでなくて、そういった意味で、いかにもそれっぽくスケールのでかい、想像力をふんぬと広げてくれる描写に魅了されっぱなしでした。
しかし一方いちばんゾクッとしてしまった場面はといえば、むしろもっと感傷的な部分、もうすこしちいちゃい、人間の存在とやらにちかい部分だったりするのです。(読んだことがある人でないと何を言っているのか分からないと思うから思い切って言っちゃうのだけれど*2、これ、ハリーをハリーとして受け入れるその時、主人公ケルヴィンの眼差しが変化するその過程のことを言ってます。)そういう多相性がある。
・・・まあ、僕のことはともかく・・・!この本についてしゃべくるのはさぞ楽しいだろうな、なんて思ったりする、これまたいい小説だったってことです。ぜひみなさんもどうぞ。*3