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西瓜糖の日々 - リチャード・ブローティガン

たまには最近読んだもの以外の本についても書いてみたいなと思いました。それでこれ。僕はあんまり二度三度と本を読み返すことをしないほうで、その数少ない例外というのがこの「西瓜糖の日々」なのです。*1 *2


西瓜糖の日々 (河出文庫)

西瓜糖の世界はとても淡泊で、生活という生活のあらゆる細部が脱色されてしまっている妙な場所です。たいていのものは西瓜糖でできていますが、それがどんなものなのかと聞かれても、僕たちの世界にはうまく喩えられるものがありません。とにかく西瓜糖でしかありえません。川には鱒が住んでいます。昔は虎がいたけれど、今はみんないなくなってしまいました、もう誰かが虎に食べられることはありません。この世界そのものも、西瓜糖のように、現実に生きる僕たちにとってはとらえどころのない場所なのです。


ユートピアってのは細部の現実感にとらわれずに生きることができる場所のことなのでしょうか、登場人物たちはこの本に書かれているいじょうのことをしようとはしません。伝えようともしていません、きっと。血を見ることもあるし、しがらみのようなものが無いのかといえばそんなこともない。だけれども、それが僕のほうに染みこんでくるかといえば、それもない。みんななんだか、ここが仮の住まいであるかのようです。ユートピアというのは本質的に、すべての人にとって故郷にすることができない場所なのです。


素朴なわけじゃない。が、悲しいことを悲しそうに喋ってくれるし、嬉しいことは嬉しそうに語ってくれる、不安も汚らしさもちゃんとそのままにして伝えてくれる。
そうだ。ともだちみたいなんです。だからちょっと、こうして紹介するのにはちょっとしたこっぱずかしさもあるのです。

*1:これと、「さようなら、ギャングたち」くらい。つまり、そういう本がすきなのです。

*2:はじめて英語の本を読んだのもこの本でした。藤本さんの訳は言わずもがなな素晴らしい訳なんだけれど、これだけはどうしても、書かれたそのまんまの言葉で読んでみたいと思ってしまいました。日本語を読むときと違って、いいわるいだとかは全然分からなかったんだけれど、個人的な体験として、きらっとした思い出です。