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まだ夏は終わっちゃいないって俺が言うんだから間違いない、2008

なっちゃん。 舌の先端が歯を叩き、怯えるように引っ込む。勇気を振り絞って口蓋を突き、鼻孔へと抜ける。な、っ、ちゃん。その響き。


蝉の鳴き声で目を覚ますと今日は8月最後の日曜日。折り曲げた身体をほどく衣擦れの音は昨日の朝と変わらない100%の湿度を耳から脳へと流し込む。もうちょっと寝てしまえと思った途端に目と鼻よりワーニング。カーテンの側の人影と、これは何の臭いだ。そして声。

「おはよう。」

あの子が鍵をポストに置いてったのが2週間前最後に泊まったのが3週間前別れ話を切り出されたのが1ヶ月前ということは今この部屋の鍵を持っているのは僕だけのはずであの子じゃない。じゃあ誰なんだ。その声色から分析するに身長は150cm強、外界の侵略を遙かに上回る若さの力によって維持されたなめらかな肌はうっすらと焼け、スポーツのおかげで引き締まった手脚はしかし思春期特有の柔らかさと絶妙なバランスを保っている。メランコリーの陰がちらつき始める13歳、少女。あ、この臭いは、そうだ、経血だわ。

枕から顔を引き剥がす。正解。黒い大きな目をした少女。

僕と少女を隔てるどろりとした空気をもってしてもその黒い髪だはけはどうにもぼやかすことができないみたいで、空気のやつなんだか悔しそうだ。ショートヘアの下には真っ白いTシャツ、うっすらとふくらんだ胸がコントラストの強い影を作る。乳首。白とピンクの縞模様の水着からすらりと伸びる素足がまぶしい。空気がやっと負けを認め、腹いせに、汗で湿った僕の顔に血の臭いをまとわりつかせる。

「お・は・よ・う!」

おはよう。

「おはよう。私のこと、なっちゃんて呼んでね。」


こうして僕の終わらない夏の1日が始まった。