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終わらない夏にかんする五つの断章

1

はーいみなさん、今から催眠術を始めます。

まずはリラックスして。そうそう、肩の力を抜いて深く息を吸って・・・・・・吐いて。はいもう一度。・・・・・・いいですか?それじゃあ、あなたの人生のなかで一番幸せな、いちばんきらきらしている、そんな宝物の記憶を頭の中に思い浮かべてください。いいですか?いちばん、ですよ。

はい、じゃあその記憶に長いひもを結わえてください。あんまりきつく縛らないで!ゆったりとね。そしてその長いひものもう片方の端を手にとってください。

はい、じゃあこのもう一つの端を「うんこ」に結わえちゃってください。抽象的な意味での「うんこ」でかまいません。こちらも、あんまりきつく縛っちゃうと、むにっ、ってなっちゃうから気をつけて。


はい、あなたのいちばん大切な記憶と「うんこ」がみごと繋がっちゃいましたね。こうすることで、あなたがその愛おしい記憶を頭の中に呼び起こす度に、連動して「うんこ」が登場してくれるのです。ざまあみやがれ。


こういうのを「テロ」と呼びます。

2

まず、僕の中に認識されるあらゆる記号の集合をSとしたときのべき集合2^Sを考える。

僕が本当に君を愛するための必要条件とは、僕の君に対する感覚の集合Y*1についてY \not\in 2^Sとなることなんだろうと思う。

3

僕は三条会商店街*2が大好きなんです。理由といえばそりゃたくさんあるんですが、たとえば、ボスに気を遣って全く楽しめない飲み会が終わりたいして親しくもない友人と同じ道を自転車に乗って帰らなきゃならなくなって一言もしゃべることなく黙々と走る、なんてシチュエーションにはもってこいの通りだから、とか、そんな感じです。

京都にお立ち寄りの際はぜひ。

4

「一篇の詩を書く度に終わる世界に繁る木にも果実は実る」というのは谷川俊太郎の詩句で、僕がこれを知ったのは高橋源一郎の「ゴーストバスターズ」というおそろしくすばらしい小説*3の冒頭で引用されていたからなんだけども、そう考えてみるとあらゆる文章あるいはあらゆる人間からの湧き出しがいかに平等に芳醇なものであるかってことを身をもって感じることができると思いませんか。

とか考えながら久々に読み返してみたらやめられなくなって、気づいたらこんな時間になってしまった。

5

・・・・・・もっと早く気づくべきだったんだ、暑苦しい夕日が窓から差し込んでくるその向こうのオレンジ色をした太陽が8月の最後の日曜の平和な午後を過ごす街の風景のぼやけて消えるその先へと近づいてゆく角速度の低下に。なっちゃんの無邪気で残酷な笑顔を眺めながら相対的に速まる思考の中で、僕は日没が無限遠の彼方にあることを悟った。


*1:すなわち「僕にとっての君=[tex:2^Y]」となる

*2:三条通の堀川から千本まで

*3:この高橋源一郎という人は時々ものすごい小説を書くんだけどそうでない時はとことんしょうもないというファン泣かせの小説家ですよねというかやっぱりこの本が絶版になっているなんてとんでもないことだから復刊ドットコムに登録した http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=43878