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ある革命の物語

時は西暦2011年、日本という国家は解体の危機に瀕していた。渋谷における集団妄想および連続殺人事件、秋葉原におけるタイムマシンの出現を皮切りに、科学ともオカルトともつかぬ数々の事件がこの国を襲い、ついに混乱に陥った各都市各地域住民は互いに独立を求める闘争状態に陥ることとなった。この先陣を切ったのは筑波大学(現在では筑波革命独立共闘会議と呼ばれる)をその地に据え学園都市として名を知られていたつくば市。ご存知のとおりつくば駅からほど近いつくばエキスポセンターには純国産ロケットであるH-IIロケットの実物大模型が起立しており、事故調査委員会の発表を信じるならば、これが地球外生命体を呼び寄せる役割を果たしたとのことだ。この事件により宇宙からのオーバーテクノロジーを手にした筑波大学の学生たちがその科学・技術力で独立を勝ち取った様子はテレビ、新聞、インターネット等を通じて、日本全国、そして世界全土にまで克明に報道された。そして、それが各地の隠れた闘士であった異能力者たちを刺激することになる。

次に独立の雄叫びを上げたのは京都の陰陽師たちである。古来から都として発展したこの都市のプライドは高く、当の陰陽師たちが独立を求めその姿を現すと、一般市民までがそれに賛同、ついにはそのなかから新たな陰陽師たちが生まれることとなった。この後も横浜外人墓地のリビングデッド、沖縄のキムジナー、北海道では革命を求めたテロリストたち、その他日本各地の異能力者が次々に独立を求め各々の闘争を始めることなる。そのなかには岡山における桃太郎およびその家来の子孫たち、あるいは香川の全香川高等学校うどん部連合のように自衛隊の武力によって鎮圧されたものも少なくはなかったが、徐々に日本は単一民族であるという幻想は崩れてゆき、それに伴い日本という統治機構は弱体化の一途を辿っていた。


そんななか、ここ××県○○市の小学校では、まるで何ごともなかったかのように、そんなことが起こる以前とまったく同様の授業が、静かに執り行なわれていた。もちろん秘密の手紙が教室のなかを回ることも通常通りといった趣きである。サチコは密かに思いを寄せていたケンジに今日こそ想いを伝えようと、手紙を書いたのだった。

「ケンジくんへ
日本が、そしてケンジくんのお家が大変なことになっているときに、急にこんな手紙を渡してごめんなさい。
もちろんあなたのお父さんが××県の革命の志士として戦ってることはよく知っています。
うちのお父さんなんかは流行に乗じた思想のない奴だなんて言っていたけれど、私はそうは思いません。ケンジくんのお父さんはほんとうに立派な人だし、この××県の未来のために戦っているのだと信じています。私はそんなケンジくんのお父さんのことがすごくかっこいいと思うし、その意思を継いでいこうとするケンジくんがとてもかっこいいと思います。

あっ、かっこいいだなんて、言っちゃいました。べつに、べつにそれだからってケンジくんに今日体育館の裏に来てほしいって言ってるわけじゃないんです。ただ、なにか力になれることがないかなって、そう思って、ずっと考えて、昨日ようやく『これだ!』ってのを見つけたんです。

だから、今日の放課後、体育館の裏に来てほしいんです。よろしくお願いします。」

そんなことをを書いた手紙をサチコは小さく可愛らしく折り畳んで、親友のヨシミを通じて憧れの人に渡してもらうことにする。ヨシミはその手紙をとても開きたそうにしていたけれど、とんでもない!そんなことしたら絶交よと、サチコは親友にアイコンタクトを送る。ヨシミはしぶしぶ、あとで内容教えてねとでも言いたそうに、サチコにアイコンタクトを送りかえす。こうした非言語コミュニケーションも、ケンジという次世代の革命闘士の強いリーダーシップによって育まれたものだ。そう、ケンジはクラスの女子の憧れの的だったのである。ケンジが手紙を受け取ったことを見届けると、あまりに恥ずかしくおもえて、サチコはもう彼のほうを見ることもできなかった。


そうしてやってきた放課後、サチコは意を決して体育館裏に向かう。そう。彼に想いを伝え、それを示す贈り物をするのだ。彼女の心臓はもう沸騰寸前、雨上がりに金木犀がつやつやと光っている。ケンジがやってきた。

「どうしたんだい」
ケンジはいつもクールなナイスガイである。とても小学生とは思えない。顎にはダンディな髭さえ生えている。まさに革命闘士の顔だ。
「あっ……あの……」
サチコは顔をみるみる赤らめ、ケンジは怪訝そうな顔をする。
「これ、受け取ってください!!!!!」
そう言ってサチコが渡したのは、火炎瓶。その作り方を知るため、サチコは夜なべて、ゲリラのための裏文書をインターネットじゅう捜し回ったのだった。
しかしここで悲劇が起こる。サチコの胸の高なりが頂点に達した結果、火炎瓶の栓をしていた布の発火温度にまで達してしまったらしい、その火炎瓶はもうもうと炎を発しはじめる。サチコは告白の台詞を思い出すのに精一杯でそんなことにも気がつかない。危険な状態である。
しかしそこはこの小学校の革命のリーダーシップをとるケンジ、すわ反革命派の陰謀と思い込んだ彼は、即座に火炎瓶を蹴飛ばし、反射的に銃を取り出す。


銃声が陽光のもとに鳴り響く。サチコはケンジの凶弾に倒れる。


地面に仰向けになったサチコの目がケンジを居抜く。その汚れを知らない目に、我に返ったケンジは、今にも息絶えそうなサチコのか細い躰を支える。
「どうして君が……」
「ちがうの…私…ケンジくんの役に立つと思って……だからこれを使ってもらおうと思って……」
そこでケンジは自分の間違いに気付く。そうだ、ただの勘違いであったのだ。武力闘争のために完璧に訓練された彼の身体および頭脳が悲劇を呼んだのである。そしてサチコは彼の腕の中で息絶える。最期の言葉は「きっと……きっと闘争を完遂してね……ケンジくんならできると、これで確信できたわ……」
彼は知らず知らずのうちにサチコに愛情を抱いていたことを思い知る。そうだ、あの時も彼女を目で追っていた、あの時も、あの時も……

そしてケンジは他の誰でもないサチコのためにこの××県の独立を成し遂げようと決心する。自分のためでもない、漠然とした県民たちのためでもない、自らの愛した人のために、この日ほんとうに彼は立ち上がったのである。


そしてケンジはついに××県の独立を成し遂げ、さらには日本列島に連邦制を打ち立てることになるのだが……それはまたべつの物語、いつか、べつの時に話すことにしよう。