自転車で帰省した話(1日目)

写真もなにも撮っていないのでブログのエントリとしては何も面白くないのですがとりあえず日記だけ。東京から岡山までのうち、とりあえず1日目。東京から沼津まで。


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10月17日。

下宿を出たのは深夜3時半。本当は5時くらいに起きて準備してから出ようと計画していたはずなのに。前日は早く眠らなければ早く眠らなければとそればかり考えていたけれど、けっきょく一睡もできなかった。元気な17日のうちに箱根を越えようという予定だった。はじめてのことだからどのくらい時間がかかるか分からない。分からないから不安になる。不安になって眠れなくて、それじゃあ「元気な一日目のうちに」なんてできるのかとさらに不安になる。くよくよするのはやめよう、とりあえず早く出れば早くには着くのだろうということでとりあえずもとりあえず、家を出たのが3時半。

東海道を行くならとりあえず日本橋から出ねばなるまいと日本橋。深夜というか早朝もいいとこだったから自動車もほとんど通らず、また都内だから街灯も多い。これは快適で、けっきょくこれより快適な道は最後までなかった。この調子で行けば意外と楽勝じゃねえかと一瞬考えたけれども、いや、実際そんなことないぞ、サイクルコンピュータの距離がいっこうに稼げない。下宿から小田原まで100km行かなきゃなんないのに、10kmほど走るのだって長く感じる。目的地が遠いからまったく進んだ気がしない。東京を出るのにも一苦労だ。川崎を過ぎたあたりで夜が明けてきて、横浜まで行ってようやく40kmほどだったか。

6時半に保土ヶ谷あたりで最初の休憩。朝こんなに早い時間だというのに、早くもこれ、やめておけばよかったんじゃないかと思いはじめるがもうどうしようもない。コンビニでおにぎりを買って店の前で食い、さっさと道路に戻る。そこから一号線をそのまま、戸塚を過ぎ……れない、すっかり忘れていた、有名な戸塚の開かずの踏切、ここって一号線(の旧いほう)と東海道本線が交わるところだったのか、と、カンカン鳴る踏切を前にイライラを募らせる。はじめはどこか迂回するよりは待ったほうがいいだろうと思っていたのだけれど、ぜんぜん開かない、仕方ねえクソどっか迂回しようと思ってくるりと逆を向いたちょうどそのとき一瞬だけ遮断機が上がる。向こうからおっさんが走ってくる。音は止まないけれどもうここで突破するしかないというわけで、なんとか渡って、通勤で軽く渋滞する一号線をゆっくり走る。上りが既にキツい。そしてどこでどう間違えたか藤沢バイパスに入りかけてしまい(自転車侵入禁止の標識がなかったというか、いつの間に入ったのか記憶がない)横を高速で通りすぎる自動車に肝が冷える思い。トラウマになった。「死ぬ!死ぬ!」と言いながらなんとか出る道を見つけ迂回。もう二度とこんな道通りたくないというのが以降の指針となる。登校する小学生を横目に「もういやだ……もうあんな道いやだ……」と呟きながらどうにか進む道を見つけつつ一号線へ復帰し、茅ヶ崎あたりのマクドナルドで本日二度目の休憩。これが8時くらい。小田原まであと30kmほど。

茅ヶ崎 - 小田原間はたいして面白いこともなく、まだ着かんのか、もう着くだろ、まだなのか、と思いながらひたすら進む。なんだか自転車乗ってるおじさんがたいへん多い地域だったような覚えがあるが、それ以外に覚えてることがアップダウンが多かった(と感じた)ことくらい。既に疲れていたんだと思う。箱根に向けた昼飯のために小田原駅に着いたのが10時半。さすがに4時前に出ただけあって予定よりもずっと早い到着であった。うどんを食べて眠くなりつつも、まだ午前中(100km走ってきてまだ午前中なのが不思議な気がした)だということから箱根越えに楽観的な空気が広がる(自分のなかで)。

11時半くらいに出発。今日の、そしてこの帰省でいちばんの難所であろう箱根越えをはじめる。登山鉄道では湯本あたりまでしか行ったことがなく、湯本がこんなに近くにあると知らなかった。箱根駅伝だって、正月になんとなくテレビに映っているだけ、ときどき目にするけれども、最初から最後までちゃんと見たことがあるわけでもなかった。湯本がこんなに近いのなら案外たいしたことがないんじゃないかと思ったけれど……当然甘い。甘すぎるわ!!!!

実際ここから宮ノ下までが精神的にはいちばん辛かった気がする。山のなかの九十九折りを、もう乗ってなんていられないと、8割がた押して歩いた。バスが横を通る。立ち止まってニヤけた視線を送ってみたりしたけれど何にもならない。しんどい。死にたい。死ぬ。と思いながら宮ノ下に着いたのが13時半。正直どこに最高地点があるのかよく知らなくて、もうこのへんだろう、いやあ、よくがんばった、これはキツかったなあと思ったのだけれど……当然甘い。甘すぎるわ!!!小涌谷を越えて(宮ノ下から小涌谷あたりまでは人の気配が濃くていささか楽だった)ふたたび何にもない道を上っていく。もちろん押して。たまに乗ってもすぐヘタれる。あのカーブをこえたら最高地点(看板があるらしいというのは知っていた)だろう……ない……あのカーブをこえたら……ない……というのを繰り返し、けっきょく最高地点に着いのは15時過ぎ。よくわからん笑いが漏れる。「874mて!アホか!アホやな!アホだ!!ゲラゲラゲラ!!!」気違いみたいだった。一人でよかった。

そこからいっきに下り。あれだけしんどい思いをした後だから爽快感が半端ではない……が、それもあまり長くは続かず芦ノ湖畔に到着。ここでちょっと団子でも食おうと休憩をとる。標高のせいもあるし、漕がずに風を切って進んできただけっつうのもあるし、時期が時期だからやや日も傾むいてきつつこともあって、やや寒い。30分ほど休憩するも、おい、ここからまた上るなんて聞いてねえぞ。結果的にたいした上りではなかったのだけど(と言いつつしっかり押して上ったんだけど!!!!!!)、もう下りしかないんだろうと思い込んでいただけに精神的ダメージはなかなかのものだった。そして「箱根峠」の交差点。いつの間にか16時もずいぶん過ぎてた。

ここからの下りがやばい。10kmか、もっとあったかもしれないけれど、ずっと急峻な下り、ゆるいカーブ、広い道、自転車で50km/hを超えたのはさすがにはじめてだった。風が強いこともあって緊張感を強いられもしたが、それでも、このためだけにもういちど箱根を登るのはアリなんじゃないかと思ってしまった。それくらい苦労が報われた気がした。すごかった。

下りでなんだか元気が出つつ、三島過ぎたあたりで、日が暮れてきたなあ、みたいな気分、そんななかをゆるゆる進んで17時半に沼津駅着。飯食って(魚が美味いらしいというので奮発した)、ネカフェ泊。前日眠っていなかったのもあり一瞬で眠れてしまった。


3時半発18時着の、休憩含めて14時間半。146kmでした。