ゲーム、ゲーム、そしてゲーム(あと、もうすこしゲームともうすこしの告知)

最近読んだ本の話です。 ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム - 赤野工作 作者はもともとニコ動で有名な方であり、本書ももとはカクヨムの有名作品なのでご存じの方も多いかもしれません。舞台は来たるべきドラえもん後の時代、2115年、「過去の『低評価…

紙の民 - サルバドール・プラセンシア

ドンキホーテの昔から、それは。 筋書としては、小説の登場人物が、これ以上俺のことを監視し運命をいいように扱うのはやめろよ!と、著者に対して反乱をしかける、というもの。分かりやすいといえばその通り、たいへん分かりやすい話にみえます。マジックリ…

アレクサンドリア四重奏 (1) ジュスティーヌ - ロレンス・ダレル

とにもかくにも、第一巻「ジュスティーヌ」、書評などをちらほら読んでみると、ここで描かれているのは物語の一側面にしか過ぎないよう。ですから以下では、その一側面に基づいた話をいたします。全体を俯瞰した場合どうなるかだとか都市小説どうこうっての…

サマー/タイム/トラベラー - 新城カズマ

はい王道!ってことで、もちろんそれ以上のものがあったから僕は書くわけですけれども。 夏が舞台の青春SFで外れなわけないじゃないですか。……と言いたいところなんだけど、正直言うと1巻を読み終えた時点では「こりゃまたタルい話だなー」って感想でした。…

読みあぐねている人のためのピンチョン入門 (逆光 - トマス・ピンチョン)

恒例となりました「おまえピンチョン言いたいだけやろ!!」のコーナーです。このたび『逆光』を読み終えましたので感想……と思いきや、そもそも感想だのレビューだのは、良質なものがすでにネット上にあふれておった。とりあえずこのエントリの最後にもいく…

ハックルベリイ・フィンの冒険 - マーク・トウェイン

*1 「よし、それじゃあ僕は地獄へ行こう」*2 これは、この本のなかでいちばん心にのこったせりふです。このせりふを読んだとき、ぼくはハックのことがとてもかっこいいなとおもいました。なぜなら、ハックは天国とか地ごくとかそういうものを、おせわになっ…

スロー・ラーナー - トマス・ピンチョン

ってことで最早恒例となりました、ピンチョンのお時間です。『メイスン&ディクスン』は上巻の感想だけで上下巻通した感想は書いていませんでした。全体的な感触としてはこないだ書いたものが当たっていたように考えたからです。……もちろん、あの結末は、まさ…

あなたの人生の物語 - テッド・チャン

今まで読んだことがないという体たらくでありました、テッド・チャンの短編集『あなたの人生の物語』。構成と主題の組み合わさり方が美しいのはもはや当然として、SFの本懐というべきか、ものごとをまったく別の視点から照射するそのやりかたがあまりに鮮か…

ヴォイニッチホテル - 道満晴明

今日は道満晴明せんせいの『ヴォイニッチホテル』の感想を書きます。ずいぶん前からヤングチャンピオン烈で連載されていた*1作品がようやく単行本化。読み切り短篇は性本能と水爆戦シリーズに収録されていたものをたくさんたくさん読んでおり、大好きだった…

小説誌『HARVEST』の感想を書くよ

いきなりですが、陸条さん(@joe_kuga / id:inhero)主宰の小説誌『HARVEST』に参加させていただきました。なんだよおい文フリにはまだ早いぜとおっしゃる皆さま!こんな時期にいきなりそんなことを喋くりはじめるにはもちろん理由があります。はい、以下のリ…

ゼロ年代日本SFベスト集成 S/F

日本短編SFアンソロジーの紹介、そういえばぜんぜんやってませんでした。せっかくなのでつい最近読んだこの二冊について書いてみたいと思います。こないだ(つっても5ヶ月前か!)紹介した『ゼロ年代SF傑作選』*1がいわゆる「リアル・フィクション」ものをとり…

エンジン・サマー - ジョン・クロウリー

最近長ったらしい感想ばかり書いていたので、今回は手短に。 人間の体験というのはどうしたって完全には別の人間のなかに再生できないし、僕たちはときに、それをしようともがく。ではもしそれができたとしたら、いったいどうなるのか、その体験じたいが十人…

25時のバカンス - 市川春子

ずいぶんまんがのことを書いていなかったからというわけでもないんですが、今日は久しぶりにまんがのことを書きます。市川春子のまんがについてです。単行本としては作品集『虫と歌』。未収録のものとしてはアフタヌーン2010年1月号に掲載の「パンドラにて」…

メイスン&ディクスン - トマス・ピンチョン (上巻)

ほんとうは日記なり妙ちくりんなお話なりを書きたい気分ではあるのですが、どうも頭のほうがそれにお付き合いしてくれないみたいなので本の感想を書きます。全日本人が待望していた(はず!)のトマス・ピンチョン全小説の出版、そのラインナップでいちばんは…

ゼロ年代SF傑作選 - SFマガジン編集部

さいきん日本の短編SFアンソロジーをちょいちょい読みながら、その魅力にすっかりハマってしまいましてね……今日はそのあたりの紹介をしてみようとっています。 アンソロジーつって、どんなのがあるかと言いますと、ハヤカワの「ゼロ年代SF傑作選」、創元社の…

モモ - ミヒャエル・エンデ

最近、むかし読んだ本をもういちど読んでみようマイブームがマイハートのなかでマイバーニンングしていて、いやマイバーニングもクソもないんだけどともかく、『変身』を読んだり『伝奇集』を読んだり、それこそ『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』*1を読ん…

そうそう、大事なことを言います

講談社文芸文庫から、高橋源一郎「ゴーストバスターズ」が出ています。 みなさん読みましょう。高橋源一郎については以前いちど書いている(もちろん「ゴーストバスターズ」についても!)ので、物好きのみなさんはまた読んでくださるとうれしいです。 http://…

翻訳小説の愉しみ

こんにちは。いつもお上品な僕ですが、今日はそのお上品さに磨きをかけたしゃらくせえ口調で、翻訳小説って何が面白いのか、そんなところに焦点を当ててお話していきたいと考えています。 なんでまた翻訳小説なんですか? そもそも「翻訳小説」とはなにかと…

V. - トマス・ピンチョン

僕にとっては,中編「競売ナンバー49の叫び」および短編集「スロー・ラーナー」に続き,はじめてのピンチョンの長編でした.いままでだってまちがいなく好きな作家だったのですが,今回こうして長編を読むことで,自分のなかでは明かに他から頭ひとつ(どころ…

いきなりですが泉和良という人の話をします。

いきなりですが泉和良という人の話をします。ええと、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、アンディー・メンテのジスカルドさん*1の筆名です。基本的にはフリーウェア・ゲームをつくっている人で、それについてはこのへんが詳しいでしょうか。で、な…

ヘヴン - 川上未映子

で、読んだ。けっきょく単行本ではなく「群像」に載ってたのを買ってちょいちょい読み進め、後半はいっきに。短編と言うには長く長編と言うには短いってくらいの分量の小説です。あんまりネタバレ気にせずに書きました。それほどネタバレに慎重にならなけれ…

天体による永遠 - ルイ・オーギュスト・ブランキ

id:goldheadさんが度々言及されている*1のを見て手にとらずにはいられませんでした.冷徹なロマンティシズムに満ちた一冊.なにが語られているかといえば「永遠の時間のなかの無限の宇宙から演繹されることがらについて」といったところで,これは熱力学の法…

星条旗の聞こえない部屋 - リービ英雄

もう2週間いじょうもまえに読み終えた本だからなんだかもうその時の気持ちのざわざわしたひだの裏側などとうに忘れてしまってはいるのですが、それでも僕はこの本についてはなにか書きとめておきたい、と、そう思わされる*1一冊でした。僕はべつに、日本以外…

囚人のジレンマ - リチャード・パワーズ

アメリカ文学のうち、僕がなんとなく惹かれてしまうものはなぜか、アメリカそのものを、戦争のイメージ、あるいは父権的なものから照らしだすような小説であることが多いのですが、この本もやはりそんなふうなもののひとつなのだろうと思いました。そして、…

わたしの名は紅 - オルハン・パムク

*1 *2様式(スタイル)についてのお話でした。 舞台は16世紀末のトルコ。細密画師が殺された事件をきっかけに、その犯人さがしが物語の核となって登場人物たちの(「藪の中」みたいな)一人称の語り*3が積み重ねられていく。いくんだけど、ちりばめられる細…

ハーモニー - 伊藤計劃

このタイミングでこれを書くのは悪趣味ですか?すみません。でも僕は僕に負けた。ので、す。 - 明らかに生政治の(素直すぎるほどに文字通りな)極限としてのディストピアのお話なんだけど、どうなんだろう、それじたいが最も重要な要素であったかといえば、…

Self-Reference ENGINE - 円城塔

予想に反してすごく反自然的な小説でした。なんていうか、前期ヴィトゲンシュタイン的な意味において。 「語りえぬものについては、沈黙せねばならない」という命題において理解しなければならんのはもちろん「何が語りうるものなのか」ということであるはず…

今年読んだ本(無理矢理)まとめ

うさんくさげなものは一日にまとめてしまうに限ります。 今年読んだ本てのをいろいろ思い出してみるのだけれど、まず大きかったのは一昨年の年末から読み始めていた「ユリシーズ」を4月になってようやく読み終えたことでしょうか。ひとつの本をこんなに長い…

黒い時計の旅 - スティーヴ・エリクソン

一方の20世紀に生きる女と他方の20世紀に生きる男についての物語でした。 最初のうちから気になって仕方がなかったのは、彼らの体験のうちどれが虚構でどれが虚構でないか、どれほどの割合で虚構と現実が混じり合っているのかを、語り手は明言しないのだとい…

ロリータ - ウラジミール・ナボコフ

偶然及び必然の一致で悦に入りフロイト的なものを小馬鹿にした態度に溜飲を下げアメリカが逆立ちしてだからこそアメリカらしく迫ってくる様におののき、主人公ハンバート・ハンバートの自分語りにこめかみをぴくぴくさせられながら読みました。 ■ ヘーゲルは…