競売ナンバー49の叫び - トマス・ピンチョン

初めてのピンチョンである。ちゃんとしたストーリーがある数少ない作品のうちのひとつ(!)だとか言うけれど、それでも、大丈夫かなあ、なんておそるおそる読み始めた。
結論から言えば、まったくもってそんな心配は無用だった。こいつはすごい。*1
競売ナンバー49の叫び
五感の描写がなんだかやけに捻じ曲がっているように感じるのは必然性のない細部への固執がなせる業か。そのせいで、全体を通して、文章の中に現れるひとつひとつのデータのもつ情報量が不明瞭に感じられるのか。
僕がここに物語を見出すのは、こういった不明瞭なデータの連なりに情報としての意味をもたせあるいは意味をつくりだすからで、用意された因果関係があるかどうかなんてことは本質的ではない。著者の手から離れた小説から好き勝手な物語を見出す僕は、ほんとうはパラノイアなのかもしれない。無意識のうちに記憶からデータをロードし、無意識のうちに情報を取捨選択し、無意識のうちに忘れ、そうやって作り上げた僕の物語は、誰かほかの人の頭の中に同じかたちで再生されることは決してない。
いや、もしかして、間逆なのかな?

*1:読み終えて即座に原著のペーパーバックを注文してしまった!