でもってもうひとつ。ゆっくりゆっくり読んでいたら、結局読了までに1年近くかかってしまった。
そもそも中上健次がすきで、その流れでよし挑戦してみようとした初フォークナーがこれ。はじめは読むのが苦痛でしかなかった。
突然現れる鮮やかな比喩だとか、ものすごい勢いで頭に流れ込まされる独白だとかそういったものに助けられ、いつのまにやら中盤をすぎて、トマス・サトペンの生い立ちが語られる辺りからはいっきに面白くなった。文体*1に対する慣れというのももちろんあるのだろが、物語の全体の構図がおぼろげながら把握できるようになって来たのもこの頃だった覚えがある。やはりそれが一番大きかったんじゃないかなあ、なんて思い出す。
「物語」とはが何かと問われれば、迷うことなくこの「アブサロム、アブサロム!」をいちばんに挙げるだろう。ほんの一片の描写が広大な空間をまたぎ、何世代にもわたる時間が一瞬で目の前を通り過ぎる、そんなことを感じさせる力を持つことが「物語」であるということではないか。むせ返るほどの血の、地のにおいを感じさせることが「物語」であるということではないか。