昭和歌謡。昭和歌謡ってものをまともに聞いたことなんてないけれど、これはいわゆる昭和歌謡以外の何者でもないでしょ。「火垂るの墓」の、「東京小説」の、「エロ事師たち」の、野坂昭如先生によるこの一枚。
僕にとっての「出会い」ってのはたいてい、その出会った対象への印象ばかりがはっきりと残ってそれ以外のディティールってのがすぐにはげ落ちてしまうものなのだけれど、これだってやっぱりそう。もういつだったかよくわからないんだけれど、近所の古本屋*1で「バージン・ブルース」が流れていたのを聴いたのが最初だったと思う。当時は野坂昭如が歌を歌ってるってこと、それだけしか知らなかったものだから、そのときに流れていたやけに悪ノリなMCとどうにもこうにもならんような歌詞が印象深く残っていたものの、結局誰のCDが流れていたのかもわからず、家に帰ってから調べることもせず、そのうち忘れてしまった。
そして再び出会ったのは先輩宅。えらく博識で、僕が会うようなときにはええ歳してひどい(としか言いようがない)遊びばかりしているような人だったのだけれど、その人の部屋に初めて行ったときに「これがすごい」と取り出してくれたのがこの「鬱と躁」。
あ!アレだ!・・・って、CDがかかったとたん、一瞬にして古本屋での印象が蘇った。これは買わなきゃ!と思った。*2
そう、買った。
この世はもうじきおしまいだ
あの街この街鐘が鳴る切ない切ないこの夜を
どうするどうするあなたならマリリンモンロー・ノーリターン
*3
なんなんだこの歌詞は。確かに鬱と躁という言葉がぴったりで、こういうやけにダンディーな声で歌われると、そのまぜこぜの具合というか、双極性みたいなものが強調される。とかく陰鬱な気分になるような、それでもやっぱり馬鹿らしすぎて笑ってしまうような名詩揃い。
前半は女子大でのライブ録音で、はじめと途中にちょっとずつ野坂昭如の「話」がはさまれるのですが、これがまたすごくいい。
・・・
ちょっとそれで、手を叩いていただきたいのです。
(略)
まずはあの、バージンの方だけ♪あなたもバージン私もバージン (ポン・ポン) ばぁじん・ぶるぅうす♪
あの、この「ポン・ポン」つうとこでバージンの方は、手を叩いてください。もう一度やらせていただきます。
♪あなたもバージン私もバージン (ポン・ポン) ばぁじん・ぶるぅうす♪
(誰も叩かない)
あの・・・(略)・・・もう、かなりの方がもはや非バージンなのですね。じゃあもうバージンは無視して、あの、非バージンの方にちょっと手を叩いていただきましょう。
この際非バージンつうとちょっと言葉が悪いから、ポンポンて手を叩くところはこんどはバージンの方は一切手を叩かないで、あのー、もうバージンじゃなくなった、一人前のりっぱな、美しい女の人だけが、手を叩いてください。
♪あなたもバージン私もバージン (ポン・ポン) ♪
(やっぱり誰も叩かない)どこらへんにいるんですか?(笑)バージンでもなくて非バージンでもないって人は何してるんすか?みんなレズビアンてことですか?
・・・
(この間女子大生大ウケ)
*4
で、歌が始まるわけですよ。このMCにしてこんな歌詞。ギャップがひどい。痛々しすぎるだろうこれは。
ジンジンジンジン血がジンジン
とめてもとまらぬものならば
ジンジンジンジン血がジンジン
赤チン塗りましょ ウラオモテ
色はにほへと散るりぬるを
よくばりばばあはギンギラギン
角だせ槍だせ目玉出せ
出さなきゃ貝がら踏みつぶせ
*5
さすがというかなんというか。心に響かせてしかもいつまでも消えないような、そんな言葉を作り出せる人ってのはほんとうにすごいと思う。文句なしにお奨めできる一枚です。
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追記:バージンブルースはそういえば、戸川純が歌ってた。