1.
3月9日:妙な夢を見る。どこだかわからないけれど狭くて暑苦しいところに閉じ込められている。僕が演じている人間はどうやら少しばかり焦っているようで、周りに手を伸ばしたり引っ込めたりしては何かがちゃがちゃやっている。周りは暗くてよく見えない。どちらが上でどちらが下なのかもよく分からない。妙な夢だ。
3月27日:半月ほど前から毎晩見るようになった例の夢が少しずつ変化していることに気づいた。周りがぼんやりとした灰色へと変わり暑苦しさが増していく。僕はいっそう手の動きを早める。
4月10日:昨日の夢。いつのまにか僕は手のがちゃがちゃを止めていた。静かだ。いや、周囲の音が大きすぎて耳が麻痺しているのかもしれない。
4月12日:夢。周りが真っ白になったかと思うと黒地に青っぽい緑っぽい何かが一瞬だけ見えたような気がして、それで目が覚めた。
4月20日:そういえばあれからいちども夢を見ていない。
2.
マコトがこのところ毎晩のように裏庭でロケットのようなものをつくっている。仕事(彼は町役場に勤めていた)から帰りハルコの作った夕食を食べるとすぐに工具を持ち裏庭へ出て、ロケットのようなものをつくり始める。ハルコは男の人の趣味ってわからないものねとため息をつく。
どこから持ち帰ったのか分からないたくさんの木材を切り離し、継ぎ合わせ、マコトは毎晩ロケットのようなものを作った。手のひらに乗るくらいの大きさのロケットのようなものをちまちまと作る日もあれば、マコトの身長の3倍もあろうかという大きさのロケットのようなものを一気に組み上げる日もあった。完成したロケットのようなもののはすべてその日のうちに裏山へ捨てられた。どのロケットのようなものにも翼や噴射口そのほかロケットについているべきものは何一つ無かったにもかかわらず、ハルコにとってそれらはロケットのようなもの以外のなにものでもなかった。
男の人の趣味ってわからないものね。
3.
「それで・・・どこんとこの子だったかねえ・・・?」だーかーら、ヨシコんとこの息子だよ。シュウイチだよ、覚えてない?「そーかそーか、何年生になった?」いや、もう大学卒業して・・・去年から働いてるんだってば。「それにしてもほんまにマコさんによお似とるがな!」
・・・・・・帰りの車の中でじいちゃんとばあちゃんのことを考えた。じいちゃんは僕が八つのとき――日本の有人ロケットがはじめて宇宙に行った日のことだから日付までよく覚えてる――に死んじゃって、ばあちゃんはそれからずっとひとりでこの山の中に住んでいる。僕も家から出たことだし、母さんもそろそろばあちゃんのこと毛嫌いするのやめてうちに呼んであげればいいのに。
5.
ねておきてねておきてねておきてねてゆめのなかではガガーリン墜つ