ハックルベリイ・フィンの冒険 - マーク・トウェイン

ハックルベリイ・フィンの冒険 (新潮文庫)*1


「よし、それじゃあ僕は地獄へ行こう」*2
これは、この本のなかでいちばん心にのこったせりふです。このせりふを読んだとき、ぼくはハックのことがとてもかっこいいなとおもいました。なぜなら、ハックは天国とか地ごくとかそういうものを、おせわになった未亡人やワトソンじょうから聞いて知っていて、しかもちゃんと信じていて、ジムを逃がしてやることは地ごくへ行くと言われることだというのも分かっているというのに、それでもジム(これはこの本のなかで、ハックの友だちになる黒ん坊のおじいさんの名前です)のことを助けようとするからです。

ハックはけっして、でたらめに、そのばそのばで良心をすらすら変えてやりすごそうとしているわけじゃありません。さっきの場面でもそうですし、ほかでもそうです。たとえば、メアリ・ジェーンを王様とこうしゃくといっしょになってだましてしまっていることを、うちあけたりしたときもそうです。ハックだって、よゆうしゃくしゃくでいろんな人たちにうそをついていることもあります。でも、ハックにとって、人をだましていいときと、わるいときは、こころのなかで、きまっているのです。ハックはきちんとじぶんでなっとくいくまで考えます。ほかの人がどう思おうとも、それはハックにとってかんけいないことなのです。じぶんが悲しくなったり、じぶんが腹をたてたりしたとき、それをじぶんのなかだけできちんと考えて、こたえをだすのです。それはとてもむずかしいことなんじゃないかな、とぼくは思います。


ほかにもこの本にはおもしろいところがたくさんあります。とくにぼくが好きになったのは、ハックがうそを言っているところです。この本のなかには、そういうところがたくさん出てきます。うそがばれてしまいそうになってあぶないこともたくさんありますが、それでもなんとか切りぬけます。ハックはとてもきてんがきくのです。じぶんでは「あたまがわるい」と言っていますが、そんなことはありません。でもいくらなんでも、みんなはどんどん信じてしまいすぎなんじゃないかとも思います。きっとむかしのアメリカは、いろんなじょうほうが伝わるのが、いまよりもずっとおそかったんだろうな、と思いました。それでも、これがぼくだったら、こんなにすらすらうそを言えないだろうと思います。


そういうわけで、ハックがとてもかっこいい本でした。とてもよかったです。

*1:こないだがもしドラで今回がハック・フィンなんですがとくに他意はありません

*2:p.331