『文体の舵をとれ』練習問題(2)「ジョゼ・サラマーゴのつもりで」

一段落〜一ページ(三〇〇〜七〇〇文字)で、句読点のない語りを執筆すること(段落などほかの区切りも使用禁止)。

 長かったとにかく長かった昇降機の揺れが止まれば約束の時間から二十一分といったところでドアが開くのももどかしくきっとオオヤギは怒ってるから踏み出せ踏み出せと踏み出し左を向いてもこっちじゃない右を向けばなるほど十五メートルほど先にそびえるのはでかい樹でオオヤギが見りゃわかると言ってたとおり首が痛くなるほど見上げたって中腹までしか見えやせずその大きさのほかになんの特徴だって見あたらないでかい樹だったから幹のはじはじをいちどに視野に入れることさえできやせずそのあまりの大きさにわたしの心のほうが耐えられなくなった結果頭のなかから樹の存在は追いやられわたしはオオヤギの姿をいつものように追うしかなくなった結果もう二十三分過ぎだからいつものように怒られないようあちらから歩いてくる男をひらりこちらの女をするりと樹の自若をよそにしたわたしは雑踏の駅前でオオヤギと待ち合わせるいつものわたしともう変わらない。