承前。
引き続き第2部と第3部について。
第2部:キーワード編
第2部はトピックごとの数ページでの解説。どうしても気になったのは、五十音順にフラットに並んでいるだけの構成であること。もちろん、各キーワードを(数ページというかなり厳しい紙幅のなかでさえ)多面的に論じているぶん素直に分類するのは難しく、なんなら誤解の生じるおそれがあるのはわかる。わかるけど、入門書という位置づけを考えれば、多少強いてでもマッピングを示してほしかったというのが自分の意見です。
せっかくなんでぱぱっと分類してみたのが下記。
- ゲームを構成するもの
- 技術:エミュレーション、音・音楽、VR、プラットフォーム
- 表現:アイテム、アバター/プレイヤーキャラクター、NPC、物語
- ゲームの経験
- 体験:学習、ナビゲーション、没入、マジックサークル
- プレイヤーによる実践:RTA、ゲーム実況、チート、ユーザー生成コンテンツ
- ゲームと社会
- 社会的課題:アクセシビリティと障害の表象、ジェンダーとセクシュアリティ、ゲーム行動症、倫理
- 文化と産業:インディーゲーム、ゲーミフィケーション、スポーツ、ツーリズム
- 研究と保存:アーカイブ、批評、歴史記述(ゲーム史を書くこと)
たしかにやっぱ無理くり感が出ますね……。
ともあれ、以下ざっくばらんに。
- 「アバター/プレイヤーキャラクター」について。このへんは普段から気になっているところなので改めてのまとめとして助かった。最近自分で読んだものだとシングルプレイヤーのRPGにおけるクィアなプレイの可能性について論じてるStenros and Sihvonen(2020)1がおもしろかったのだけど、ちょうどそこで引かれているものとも重なっていた。ブックガイド編にあるショー『ゲーミング・アット・ジ・エッジ』も参考
- 「没入」について、研究史のなかで「没入の誤謬」(サレン&ジマーマン)が警戒されていたというのはちょっと意外だった。自分もたんじゅんな「没入」観に抵抗のあるほうなので共感するけれど、とはいえライアンやマノヴィッチの見立てにピンとくるかというと微妙だな……とか、難しいところである2
- 「物語」について。おおざっぱにいって物語論的な方向性とフィクション論的な方向性があるよ、みたいな整理のこと、ほんともっと早く知りたかったぜ……自分はむかしあんまり区別がついておらず論文とか読んでもピンとこないことがよくあったんだけど、この見立てに気づいてからはだいぶん読みやすくなったという経験があるので……(なお、自分はどっちかといえば後者のほうにより興味があると思う)
- 「倫理」について。これまでゲーマーのジレンマについて考えるおもしろさがあんまりよくわかっていなかったんだけど、現実のレーティングの話題にも繋がってくると考えればたしかに気になってくるところがある
- あと、「アイテム」や「ナビゲーション」みたいな項目があるのがけっこうおもしろい。素朴に考えているとあんまり出てこなさそうで、でも当該項目を読んでみるとたしかに興味深いんだなという感じだった
- 一方で、「アーカイブ」や「アクセシビリティと障害の表象」3あたりはほんとに大事なはずなのにスルーされがちでもあるところで、それがちゃんと立項されているのがうれしい。みんな読んでほしい
- 「VR」とか「ツーリズム」とかの項目は限られた紙幅のなかでのまとめ方がうめえとか、「インディーゲーム」とか「歴史記述」あたりは取り組んでいる人による気持ちが見え隠れするよなとか、そういうおもしろさもある
第3部:ブックガイド編
ここは基本的に年代順に並んでいる。研究者ならともかく、そうでなければ(参照されているからには最低限のところ理解しておきたいくらいのモチベーションで)いまさらホイジンガやカイヨワから読みたくねえというのが正直なところだろうから、ここにあるまとめだけ読んどくでもひとまずOKという感じではないでしょうか。サットン=スミスとかヘンリクスとかも含めて遊戯論系はとっかかりのなさがちょっとしんどいのもあるのかもしれない。
こちらもざっくばらんに。
- スーツ『キリギリス』:さっき「まあ原典に手を伸ばさんでも……」といったばかりなんだけど、これはマジで変な本でおもろいのでみんな読んでほしい
- ファイン『共有されるファンタジー』:まったくノーチェックだったのだけどめちゃくちゃおもしろそうやんけってなった。1983年の時点で、TTRPGの参加者が生活者であること/プレイヤーであること/虚構的キャラクターであることに同時にコミットしてる(ときには取り違えも起こる)みたいなのがちゃんと観察されて記述されてるっぽいのがすごい
- マレー『ホロデッキ上のハムレット』:没入とか行為者性みたいな語の使われ方を辿ってくとどうしても通らざるをえないんだよなとか、ジェンキンスの有名な環境ストーリーテリングの話もちゃんとここに源流があるよなとか思ったり。あと、有名なテトリス解釈はちょっと難癖つけられすぎでしょみたいなところ、ちょっとウケてしまった
- オーセット『サイバーテキスト』:(オリジネイターのひとりなだけに)どこでも参照されてるやつ。「エルゴート的」はおおむね「インタラクティブ」なのかな〜と思い込んでたんだけど、案外そうでもないかもしれないみたいなのが気になるところです。最近ちょうどNarrative Complexityみたいな概念を知って4、そっちで改めて出会ったこともあるし。これがいちばん翻訳がほしいんだよな
- ユール『ハーフリアル』:とりあえず最初に手にとるといいよとされています
- ギャロウェイ『ゲーミング』、ボゴスト『説得的ゲーム』、コンサルヴォ『チート行為』:このへんもたびたび出てきて翻訳ほしいやつだ
- タヴィナー『ビデオゲームの芸術』:珍しく、つまみ読みながらも読んだことあるやつ。たしかにこれもよく参照されているのを見るが、日本の読者としてはとりあえず松永『ビデオゲームの美学』のほうを読んでからでよいのではないか
だいたいそんなもんでしょうか。
- Stenros, Jaakko, and Tanja Sihvonen. 2020. “Like Seeing Yourself in the Mirror? Solitary Role-Play as Performance and Pretend Play.” Game Studies 20 (4). https://gamestudies.org/2004/articles/stenros_sihvonen↩
- このブログでは、没入の話が出るたびにこの記事を挙げるというルールになっています!: お前らの言うImmersionのニュアンスがわからない - 青色3号 / 当該項目中でも最後にSCIモデルの話とCallejaの話が出てきていて、そこはなるほどだった。↩
- 最近でも「Switch 2 の初期設定時に音声読み上げを利用できないことに関して任天堂に送った要望の全文」などがありましたね。↩
- Barkman, Cassandra Jane. 2024. “Narrative Complexity in Videogames.” PhD thesis, Swinburne University of Technology.↩