2023-07-06

駅から会社へのみちに橋と坂があり、橋の話は橋の話でまたそのうちやりたいのだけれど、だから今日は坂のほうの話なんですけど、その坂ってのがそれなりけっこう急な坂ではあって、のぼりきったさきにはでかい企業の本社があるなどしており、朝の通勤の時間帯なんかにゃけっこうな数が出社のためにもくもくとのぼっている様子をそこでみることができます。おれじしんそれを遠目にする身分でなく、のぼったさきのでかい企業とはたいした関係もない(ないこともない)いちはやくもくもくをとりやめられる程度のふもとにあるなんて強みのあるちいさな会社ではたらいており、だからどのみち、そうやってもくもくしているうちのひとりである。「もくもく」といったけれど、そう、けっこう急な坂なんだからむしろ「えっちらおっちら」くらいのが似合ってるだろか。で、紋切に死んだ魚の目をしながらえっちらおっちらしてみれば、目つきのわりに、ああ、なんだか運動会みたい。そうやってどこか愉快におもうことが、(おもいきり均すなら)二週間にいっぺんくらいは、ある。暑さのせいもあって頻度のたかまっているきらいさえ、ある。

朝夕にはきわめて人間蔑視的な改札口を彼らはすこしのいら立ちも見せずに通り抜けると、誰に命令されたでもないのに、フロアーにまんべんなく流れ広がって、人を押し退けようとするでもなく、無理に追い抜こうとするでもなく、群のテンポにぴったりと足並みを合わせ、それでいて密集のふとゆるんだところがあれば、すぐに間隙を満たしに行く。そしてやがて階段にさしかかると、流れは静かに淀み、先のほうからゆっくりと傾いていく。まるで苔むした岩の上を平たく滑り落ちる音なしの滝のように、それは見つめているとかすかな目まいを誘い出す……。

いや、これは地下鉄か(あと、なんかこれ階段おりてるっぽいな、最後んとこ)。唐突に出てきたのは「先導獣の話」で、すきなんだけど、これやっぱムカつくよな。うっせえわ。文章がうまいやつはだいたい敵だ。

古井由吉にたいしていまさら「文章うまい」とかいってるのヤバない?

うまいっていやそこのお前もだ。平素よりブログのほう拝読させていただいておりますが、ほんと文章うまいですよね。だから敵なんですが、それはいいんですが、急な坂のむこうに、この時期もし朝から晴れており日中のうだる暑気の予期にいちはやくうだっているならそのむこうには雲がきっとあり、そんなリテラル坂の上の雲を眺めやったり眺めやらなかったりするひとがちらほらいたりいなかったり、そのうちのひとりが自分だったりそうでなかったりして、さらに愉快になったりならなかったりしているひとが、おれひとりに均せば二週間にいっぺんあるというのなら、統計的にみればこの毎朝の視界のなかにひとりふたりはそういうやつがいるだろうってまたべつの愉快さがあります。そういう愉快さこそがおれにとってだいじなことなんですよ。狂いを待つ「滑らかな秩序」なんてどこにもなかろ。もうだいぶバラバラと。竜馬などどこにもおらんで。だれもが先導獣だったりそうでなかったりするものなりけりちゅうて慰んどる場合ちゃうねんで。