以下を読んでた。
Geerts, F.L. (2017). Saving the Game is Shaping the Game: Defining and Understanding the Save Mechanic [Master's Thesis, Utrecht University]. UU Theses Repository. https://studenttheses.uu.nl/handle/20.500.12932/26038
著者の素性がよくわからないもののひとまずユトレヒト大学の修士論文らしく、ビデオゲームのセーブメカニクスをテーマとしています。おおざっぱには、「セーブ」機能を定義・分類し1、セーブメカニクスのありかたがどんなプレイをアフォードするか2(ないし、プレイ体験にどんな影響を与えるか)について考察したうえで、物語とセーブメカニクスが深く関係する事例として『Undertale』を分析する……という内容。
セーブは必ずしも透明であることを目指す必要はなく、強制セーブでハラハラさせるだとか、いろんな可能性の試行を促すだとか、物語と深く絡んだりすることだってあるとか、そういった、ゲームをある程度やっているなら「そうだよね」という話が書いてあるだけといえばそうなんだけど、こうやってまとまったものをあまり見たことがなかったのでおもしろく読みました。そのうえで、ここでなされている「分類」はもうちょっと整理できるんじゃないかとも感じたので、以下ちょっとまとめてみます。上掲論文で示されている分類自体はここでは特段示さないものの、当然影響を受けているため、まずはそちらを見ていただくのがよいです3。
分類についての記述ってあんまりおもしろいもんじゃないけれど、とはいえやっぱり、なにか考えるときに手掛りとしてあると便利ですよね。
3つの分類軸
ここからはセーブメカニクスを「プレイヤーが進行状況を保存(セーブ)し、後で特定のゲーム状態に戻る(ロードする)ことを可能にするしくみ」であるととらえたうえで、現行のビデオゲーム作品において一般的であろう各種セーブメカニクスの分類軸として以下の3つを提案します。
- マニュアルかオートか
- 場所やタイミングに制限があるかないか
- セーブデータの数が1つか複数か
1. マニュアルかオートか
この軸の両極は以下のとおりです。
- マニュアルセーブ型:メニューを開くなどしてプレイヤーがみずからセーブする
- オートセーブ型:チェックポイントや経過時間などをもとにゲーム側が自動的にセーブする
もちろん、マニュアルといっても「わざわざ専用のメニューを開く必要がある」ものから「F5キーをポチっと押すだけ」のクイックセーブまで、かかる労力はいろいろでしょう。また、マニュアルだからといってただ面倒なだけではなく、「保存はしたくないが、ちょっと試したい」に応えてくれるというメリットもあることは念頭に置いておきたいところです。
そして、マニュアルセーブに度合いの問題があったように、オートセーブにだって、それをどの程度プレイヤーに明示的に伝えるかといったニュアンスの違いがありえます4。
2. 場所やタイミングに制限があるかないか
この軸の両極は以下のとおりです。
- 制限セーブ型:セーブポイントなど特定の場所やタイミングでのみセーブできる
- 自由セーブ型:プレイアブルであればいつでも・どこでもセーブできる
この軸についてとくに注意すべきは、「マニュアルかオートか」に比べてもいっそうスペクトラムなものになるということでしょうか。おなじ「制限」といっても、「特定のセーブポイントでしかセーブできない」のと「戦闘中はセーブできないがフィールド上ではいつでもセーブできる」のとでは、プレイ体験も相当に異なってくるはずです。
3. セーブデータの数が1つかそれ以上か
この軸の両極は以下のとおりです。
- シングルセーブデータ型:一つのセーブファイルのみが許可され、過去の状態に戻ることが制限される
- 複数セーブデータ型:複数のセーブデータを作成できる
ここで問題にしているのは「キャラごと」などでセーブデータを作れるかどうかではなく、あくまで1つのプレイスルーのセーブを複数できるかどうかであることに注意してください。したがって、たとえば『エルデンリング』は(たしかに複数キャラで別々のデータを作ることはできるものの)この意味で「シングルセーブデータ型」に分類されます。
ほかの2つの軸と異なり、この軸についてはおおむね「1つかそれ以上か」の二分法ととらえてよさそうに考えています。もちろんまったく境界事例が考えられないわけでなく、上記の「制限セーブ」と合わさった「複数ではあるが実質的にはセーブデータ数の制限がきつい」ようなケースもあるかもしれません。「物語上の特定の分岐点の間のみ行き来できるアドベンチャーゲーム」みたいなイメージですね。
分類軸についての注意
まず、ここで示した分類軸はあくまで形式的な観点からのものであり、どこにどのように保存されるかといった技術的な観点についてはオミットしていることに注意してください。とはいえ形式的なものに限ってても、さらに別の軸があることを否定するものでもありません。ぱっと思いつくりでは、「セーブできる内容の範囲」5や「セーブにリスクやコストがともなうか」6あたりはありえそうです。とはいえこれ以上増えると収拾がつかなさそうなのでいったんこれだけにさせてください!
また、「ひとつのゲームが複数のセーブメカニクスを持ち合わせる」という事例はごくありふれていることにも注意。「シングルセーブ型のクイックセーブと複数セーブ型の通常セーブ」の両方を持ち合わせているゲームはなんら珍しくありませんし、(それこそ上掲論文でも触れられているとおり)Undertaleのようなちょっと込み入った例だってあります。あるいは「ほかの難易度では複数セーブファイルを認めるけど、この超難度モードではシングルだよ」といったケースもあるでしょう。
そして、上掲論文だとあまり区別されていないように見えるのですが、ここでは「あとでロードする」という目的のもとでの機能をメインとし、「死に戻りポイント」としてのセーブについてはいったん脇に置いているのもポイントです。とはいえ、デスルーラのような実践のあることを考えれば、これらを厳密に区別するのは難しいところもありそうですね。もしかすると、上記の「複数のセーブメカニクスの持ち合わせ」として考えるのがよいのかもしれません。また、「ロードできるタイミング」についても考慮していません。
セーブメカニクスの8分類
というわけで、(スペクトラムであるとはいえ)2×2×2=8分類ができることがわかりました。せっかくなので以下ざっと見てみます。自分で想定できいるゲームの幅があまり広がってないので、たぶんもっといろいろ考えられる気がします。
0. セーブなし
1つのプレイスルーを通しでやって終了、というもの。暇潰し系のゲームや、古典的なローグライクはこれか7。
1. マニュアル×制限×シングルセーブデータ
これしかないと単に「あっ、セーブ忘れた!」が起こるだけなので、いまどき積極的には採用されないのではないか。とはいえスーファミ時代でさえ普通にあったし、そのあたりをオマージュしたものはそれこそUndertale(のゲーム内のほうのセーブ)をはじめふつうに生き残っているのかもしれない。
2. マニュアル×制限×複数セーブデータ
わざわざマニュアルでセーブさせるなら複数にしてほしいよね、というのがいまどきではあると思う。「4. マニュアル×自由×複数セーブデータ」との境目があいまい。
3. マニュアル×自由×シングルセーブデータ
いわゆる「中断セーブ」(一度ロードしたら消えてしまうセーブデータ)はおおむねこれに該当するか。「1. マニュアル×制限×シングルセーブデータ」かもしれないけど。
4. マニュアル×自由×複数セーブデータ
「戦闘中はセーブできないけどフィールドならいつでも」タイプも「自由」に数えるなら、シングルプレイヤーのRPGではこれが最大派閥なイメージがある。ノベルゲーの基本スタイルもこれだろうか。
5. オート×制限×シングルセーブデータ
チェックポイント制をとるアクションゲームやパズルゲームが思い浮かぶところ。それもあって、「死に戻りポイント」のイメージでもある。
6. オート×制限×複数セーブデータ
基本的にはできなさそうに感じる(オートと複数セーブデータの組み合わせは相性が悪い)。ややトリッキー例として、上述の「物語上の特定の分岐点の間のみ行き来できる」はこれにあたるか。
7. オート×自由×シングルセーブデータ
「常に最新の状態が強制的にセーブされてしまってやりなおせない」ような、実は「自由」からもっとも遠いメカニクスではないか。「自由」という呼び名がよくなくて、「常時」とかのほうが適していたのかも。とはいえ単純なスリープ機能もこの一種ではあり、別の組み合わせを持ち合わせたものも含め、採用例はかなり多い。
8. オート×自由×複数セーブデータ
これも基本的にはできない。進行状況のスナップショットを勝手にとりつづけていってくれるようなものが考えられなくはないかもしれない(実例は思い浮かばないのだが)。
こうしてみると、「制限-自由」の度合いがジャンル相対すぎて使いづらい気がしてきました。うーん。
以上です。
追記:2024-11-30
ちょっと読みづらかったので箇条書きをバラして見出しを増やすなどしました。
- あわせてシカールの「コアメカニクス」の定義を拡張してセーブもコアメカニクスだよみたいな話をしてるんだけど、意義があんまりわからなかった。↩
- ギブソンによる原義というよりノーマン的な意味合いでの「アフォーダンス」。このへんの言葉の使い方にはなんかいろいろあるらしいけど、よくわかっていないしここでは立ち入らないですませたい!↩
- まったく示さないのもなんだと思ったので追記。簡単に触れておくと、Manual Save, Autosave, Quick save, Single save fileという4つの大項目を立てたうえで、Manual Saveの小項目としてMenu SaveとSave Point、Autosaveの小項目としてCheckpointsに詳しく触れている感じ。書かれてあることに異論はないけれど、「分類」としてあまり網羅的とはいえないので気になった、という感じです。↩
- とはいえ「セーブ中にゲームを落とすとデータが壊れるから、このマークが出てるときは注意してね!」みたいなことを最低限言っておくのがいまどきは普通だろうか。スマートフォンのゲームだとそうでもないか。↩
- ビデオゲーム=デジタルゲームは文字通り離散的であり、したがって原理的には「完全な状態」を保存できるはず。とはいえ、技術的な制約はもとより、実際的にもマジモンの完全さが必要とされることはまずなく、ある程度「丸めた状態」で保存されることがふつうだと思われる。/場合によっては「制限-自由」の度合いと相関させることもできるだろうか。たとえば、「戦闘中は進行状況を保存できない」ことと、「戦闘中の状態は保存されない」は「同じ」といってもいい……かもしれない。↩
- セーブのために消費アイテムが必要といったゲーム内のレイヤだけじゃなく、「セーブ回数が記録されて表示される」といったメタレベルのものも含めていいのかもしれない。一方、「リスク」とはいったものの、「セーブ失敗!あなたは死ぬ!」みたいなことが起こりうるゲームはさすがにあんまりないだろうか。「セーブスカミングは統語論的時間を浪費するというコストを払っていてェ」とかは……さすがに言いすぎか。↩
- とはいえオリジナルのRogueからしていちおう「中断セーブ」みたいなのあったんでしたっけ?↩