『ユニコーンオーバーロード』と「デッキ構築」、あるいはメカニクスの抽象化について

以下の記事を読んで気になったことがあって、それについてちょっとだけ。

ユニコーンオーバーロードのバトルシステムが素晴らしかったのでそのヤバさを説く|だらねこ

同記事では『ユニコーンオーバーロード』について、アトラスの山本氏の発言を引きつつ「デッキ構築」というキーワードをとりあげており、「シングルデッキ構築」をおこなう『Slay the Spire』と「マルチデッキ構築」をおこなう本作とを対比しています。そのうえで、「マルチデッキ構築」によって実現されるおもしろさが以下のように述べられています。

  • 組み上げたビルドをボコボコにしていい
    • 特定のビルドを強烈にメタる敵が出てきてもかまわないため、以下の役割の明確化につながる
  • 役割の明確化とフォローのための構築
    • 部隊単体で強みを伸ばしたり弱みを緩和することを考えたり(「デッキ内の需要」と表現されている)、自軍全体でのリソース配分を考慮しながら部隊相互の役割分担を考えたり(「デッキ間の需要」と表現されている)できる

これらがそのとおり実現されている点については同感です。ただいっぽうで、いったん「デッキ構築」というキーワードを忘れて考えてみれば、これってパーティ内での役割分担のあるロールプレイングゲーム1のおもしろさとして挙げられるものと同じだともおもうんですよね。本作じたいいわゆる「SRPG」2として売り出されているのだからそうなって当然とさえいえるかもしれない。つまり、「マルチデッキ構築」のおもしろさを実現するメカニクスじたいは、ある程度抽象化するならば「パーティ内での役割分担のあるロールプレイングゲーム」であればおおむね存在しているといってよいはずなのです。「部隊」を「キャラクター」として、それらをまとめた自軍を「パーティ」としてとらえる、ないしはそういったフィクショナルな意味づけを捨象してメカニクスだけを抽出したときに、「ビルドの要素がちょっとややこしいロールプレイングゲーム」として包括してしまえる。したがってこの水準では、本作に独自とはとくにいえない、と3。なんならオンライン闘技場のおもんなさについてだって、そういうRPGにおいてパーティ内での役割分担もできないキャラひとつで戦うことのおもんなさを考えればわかりやすいかもしれません。

もちろんこれって、「ちょっとややこしい」の内実がだいじという話でもあります。「1つの自軍」-「10の部隊」-「5人のキャラクター」-「各種の装備/スキル/作戦」という意味付けにもとづく層構造をつくることによって、ビルド要素の複雑さを整理し、各層でのビルドの多様性を確保している……みたいなこともいえるでしょう。それこそ『伝説のオウガバトル』などである程度実現されている構造なのですが、あまりフォロワーがいなかった4ことから新鮮に感じられるというのはあるでしょうし、もちろんより洗練されてもいる(とくに作戦はいいですよね!)。同記事中の「50キャラに感情移入できるゲーム」の項の内容は、この構造(と、同記事にもあるとおりヴァニラウェアの力技)がその実現をたすけているということになるはず5

……という感じで、山本氏の発言に引きずられた6せいか、抽象化とそれによる比較のしかたに違和感があったという話でした。


  1. (特にテーブルトップの)RPGにおいて役割分担は本質的な特徴のひとつだよみたいな考えかたもあると思いますが、ビデオゲーム作品のなかでRPGとされるものにおいてはとくだん必須となってはいないのが実際のはずです。ところで、このサイトで紹介されている「コスティキャンのゲーム論」についてはその改訂版の邦訳が最近公開されている
  2. 本作や『伝説のオウガバトル』のようなRTS的なメカニクスを持つそれが典型的なSRPGとして認識されているかといえばまったくそうではないけれど、とはいえゆるいジャンル意識のなかには確実にふくまれるためミスリードとはいえない、くらいの認識です。
  3. ここでは触れませんでしたが、そのうえでこれをStSフォロワーなローグライトデッキ構築ゲームと比較するときに各周回での構築のランダム性みたいな観点を捨象してしまうのは、支払うべきコストがあまりに大きいんじゃないかとも思っています。とはいえこれはまた別の話ですね。
  4. いやもちろんRTSという意味ではいくらでもあるんだけど、SRPGに近縁なものとしてつくってあるものは……あんまり……ないですよね……? たぶん……。Symphony of Warくらい?
  5. このへんについては、先般刊行された『日中韓のゲーム文化論』所収の松永「様式化されたシミュレーション:JRPGの「不自然さ」を考える」でファイアーエムブレムに言及しているあたりもおもしろいのでおすすめです。オリジナルの論文がこちらでも読める。
  6. おそらく(このあたり自分はまったくわかっていないので自信がないのですが)、いわゆるソシャゲ的な「カード」の構築を意識した発言なのではないかという気がします。