「鏖戦」ひとり読書会にむけて(3のその2)

メタフィクション云々はまた後日!

まとめは下記。今回は第3節の続き。

murashit.hateblo.jp

  • 「阿頼厨は上部球体をかかげ、その表面に十字形に並ぶ五つの眼根【げんこん】で外界をさぐった」ではじめて阿頼厨の見た目が披露されるのだが、相変わらずよくわからんのであった
  • 目らしきものがあるようだが、光を知覚する器官なのかも微妙な表現。それがくっついているという「上部球体」だって、かしげているんじゃなくかかげている。識胞がみなこうした外見をしているのかもよくわからない
  • 蔵識嚢にはかなりの情報(セネクシの120億年にわたる歴史の要点)が収められているらしい。また、このすこしあとに直接たどれる記憶は10万世代という記述もある。ずっと寿命が変わってないとすれば十数億年ってところ
  • 「上部球体につづいて、阿頼厨は後莢【こうきょう】を押しだした」……だからわからんって! 本節冒頭の「莢」もこういう、なんか身体の一部?なのかな? あっちでは乗ってたが
  • 続いてセネクシがどのように成長するのか
  • 識胞の幼生は「球状原形質塊」のまま育つ。原形質というからには、(地球生命の細胞のようではないにせよ)なんらかの核とそれをとりまく細胞質のようなものからなると考えてよさそう
  • 幼生の棲む環境は「安母尼亜【あんもにあ】の海」だったり「濃く温かい気体の空界」だったり。ちなみにアンモニアの融点は-77℃、沸点は-33℃くらいなんすね。なぜかもっと低いと思ってた。わりとゆるいな
  • 蔵識嚢は五識胞よりあとでつくられるらしく、幼生のあいだは識胞それぞれが記憶嚢をもつ
  • あまりはっきり述べられていないのだが、どうもこの記憶嚢に過去の記録が徐々に注入されてく(?)。そしてそれによって成長し、それぞれの「識格」(人格みたいなもんやろな)もかたちづくられていくらしい
  • 「重層する過去の重みのもとで識格形成をはじめ」る、というのは比喩なのかなんなのか1
  • 完全でない記録によって識格を形成されるという性質のせいで自身らは(人類にはある)柔軟性を欠く……みたいなことをセネクシは考えているらしいのだが、この理屈はかなり謎い。ふつうに考えれば関係ない(ないし、その逆である)ように思える
  • ただ、種族I系種族との歴史比較(これを行うことは通常許されていない。後述)をとおしてよりそう思われるというくだりからすれば、「柔軟」とされる人類たちは「完全な記録のインプット」がなされている(と考えられており、ひいてはそれが柔軟性の源泉のひとつとなっていると考えられている)のだろうか
  • セネクシは変化を嫌うようだ。人類があきらかにポストヒューマンになっていることと対照的といってよいかもしれない

  • さて、先述のとおりセネクシたちは劣勢に立たされているわけで、どうにかするためにも蔵識嚢たちはいろいろと策を練る、さまざまな実験をする。阿頼厨の胞族はそういった実験の監督をこの種子船の「協議嚢【きょうぎのう】」(蔵識嚢が協議しとるんやろな……)から任されている。とくに阿頼厨はその主幹である。したがってほかのセネクシたちとちがいほか生命体との歴史比較が可能というわけ
  • そしてその実験のために、人類の胎児(6体。以降「人形【にんぎょう】」と呼ばれる)および記憶庫を入手したらしい。それがいつごろのことなのか、どのくらい時間が経っているのかは不明。胎児を「正常」に育ててみたり、あるいは干渉してみたりしている
  • 阿頼厨は劣勢を逆転できるかもしれない実験の責を負っているわけだが、「たいていの識胞は、そうした重荷を背負うと分裂してしまう」らしい。記憶の件といい、かなり情報に左右されるいきもののようにみえる
  • 阿頼厨がその重責にもかかわらず分裂しないのは、人種に興味を持っているからだろうか(直接的な関係は書かれていないのだが、どうもそれが示唆されているようにみえる)
  • 末尾の「もしかすると人形こそは、施禰倶支の存続に必要な鍵になるかもしれない……」というのは阿頼厨の思考だろう

ストーリー上とくに重要な情報としてはセネクシたちが人類の胎児と記憶庫(ここではまだ「曼陀羅【まんでいと】」とは呼ばれていない)を手に入れていることだろうが、ほかにも記憶/記録や情報へのこだわりも目を惹くところとおもわれる。物理的な組成はかなりたよりなさげに書かれている一方情報が成長や分裂に関係してくるわけで、人間よりもかなり情報偏重のいきものだ。記憶庫の入手はそのいみでも重要だろう(もちろんふつうに敵を知るって話ではあるのだが)。

あとはなんだろな、あんまり説明せずに話が進む作品ってイメージがなぜかあったけど、ここだけ見るとめちゃくちゃ密度高く設定が開示されてるんだよな……(2回に分けて書いたが3ページくらいしか進んでない!設定まとめがしたいわけではぜんぜんないんだけど、まあ最初だしそういうもんか)。実質的なアクションといえば、冒頭で滑走しているところと、説明の合間に上部球体をかかげるところ、そして後莢を押し出すところのみ。ただ、なぜかそれほど流れが不自然な感じがしないのはなんでだろうね。もちろんいかにも「説明」って感じで(苦手なひとにとっては)ウッてなるのは否定しないんだが。ざっくりとは価値判断のあまり入り込まない叙述なんだけど、ところどころ阿頼厨の主観をにじませているあたりは手管なのかもしれない。あとはわりと細かくスケールをスイッチさせてて(いきなりミクロからマクロに飛んだりその逆をしたり)そのあたりもかな。

このあと空行をまたいで「妖精態のプルーフラックスは」とはじまるところで、ああなるほどそうやって行き来しつつ進むんだなと感じるところでもある(プロローグ部分以外はセネクシ視点ってのも予測される進め方のひとつだと思われるので)。


  1. 「弓量」という単位については、原文ではただのメートルになってるらしいのを知ってしまったので省く!