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ヘヴン - 川上未映子

で、読んだ。けっきょく単行本ではなく「群像」に載ってたのを買ってちょいちょい読み進め、後半はいっきに。短編と言うには長く長編と言うには短いってくらいの分量の小説です。

あんまりネタバレ気にせずに書きました。それほどネタバレに慎重にならなければいけない小説ではないと思いますが一応。
ヘヴン


なんだ、この人はこんなふうに書くことができるのだなあと、最初のほうこそ他の川上未映子作品のことを念頭に置いていたのだけれど、そのうち、時間を空けながら読んだこともあってか、まったく独立した作品として考えるようになっていった。それにはもちろんこの小説のテーマ性の高さみたいなものも関係しているのだろうけれど。*1

で。そのテーマ、現代的ないじめを取り扱う小説というのは僕にとっておそらくはじめてのものであったはず。そしてそれを通じてコジマという女の子の獲得する「強さ」のかんかくと百瀬という傍観者的ないじめっ子のもつ虚無のかんかく、というのが後半すごくおおきなものとして現れる。だのに一方で小説のタイトルはこういったところとは直接はつながっておらず(と思う)、むしろ前半、コジマと行った美術館、けっきょく主人公はみることのできなかった絵にコジマがつけていた呼び名によっている。そんなだから、けっきょく見られなかった「ヘヴン」って絵はどんなものなのだろなー、コジマがみにつけていたあの思考となにかかんけいがあるのだろうか、うーん、などと考えてもみた。コジマは既に見たことのある「ヘヴン」とコジマの獲得した思考とは、主人公はに見られなかったあるいは共感できなかったという意味で相似であるようで、意味ありげに見えてきてしまう。だってあの結末だぜ!!そりゃあ。


もうちょっと細かいところについて。

いくつか、読み進めるのがとてもつらい(いじめられることの描写だけじゃなくて、幸せそうなときでもなにか痛々しい)場面が出てきて、それはもちろん、ぐいぐい読者を引き付けるような筆力をもって描かれていることの裏返しでもある。でも、かといってそうしたもの一辺倒というわけではなく、その合間あいま単純にきれいだな、単純にこわいな、と思えるような言葉のつらなりもでてくる。それらは文単位では(陳腐であるぶん、なのかな)心に響きやすいのだけど、先に言ったような描写よりも強度の点では劣るしどことなく浮わついたような感覚が漂っている。このような使い分けはストーリーの上での主人公(たち)の年齢に似合わない極度に思弁的なことばたちを支えるものとなっているのではなかったか。

ちょっとここで脱線する。

そうして考えてみたことで、最近の自分が文章のメリハリみたいなものを意識して読んでいることに気づいた(だからこそいずれの描写もやはり必要なものとして残されたのだということを納得したわけだ)。これは以前の僕にはなかったことで、それまではほとんど文単位おおくとも段落単位での表現の細やかさというか言葉の連なりのセンスのよさ(!)というものを味わうか、そうでなければいっきに大きくむしろ物語全体の構造だとか流れみたいなものに目を向けていた。それに対して今回はどんな視点があったのかといえば、その中間のスケール、物語と言葉とを繋ぐ領域ということになるのか、ひとつひとつの描写なり言葉の連なりが精妙であっても、それをすこし遠くから眺めてみて、一連の文章のなかでどのような役割を負っているのか、みたいな視点だったわけだ。

そういうふうに考えると、それまで「言葉はおもしろいのに素直にいいなあと感心しにくいなあ」とか「これすごくいいかんじなんだけど、どうしてだろう」と思っていたものに以前よりもすこし説明がつくような気がしてくる。ちょっと脱線が長くなってしまったのだけど、つまり、ある程度整った文章という緩衝材があることで、自然に登場人物たちの思考に入りこむことができたのではないか、と。*2


僕が中学生のときにはもちろんこんなふうに言語を駆使して自分の気持ちを描写することができるわけもなかった。たぶんほかの沢山のひとにとってもそうなんじゃないかと思う。だからこの小説で描かれていることというのはあくまでもフィクションとしてのコミュニケーションでしかないのだけど、それでも言葉にできないところで、ここに出てくる主人公と、コジマと、百瀬と…の言葉が意味するところのものをすべてひとつの心のなかに持っていたことはきっと間違いないと思えた。こうやって自分の思いにたいして後付けで説明を与えるのはフェアなやりかたではないのだろうけれど、ほとんどクライマックスといえる場面からあとはずっとその考えが頭から離れなかったのは、そういうことなんだろうと思う。


ええと、まあ、そんな感じです。

*1:これについては、マコンド犬さんの[http://d.hatena.ne.jp/megutalk/20090924:title=このエントリ]とか、[http://shop.kodansha.jp/bc/books/bungei/gunzo/backno/2009/10.html:title=群像10月号]などが面白い

*2:このあたりの見方は最近ずうっとピンチョンの長編を周年深く読んでたおかげなのかもしれない