さいきん時間があるのでいろいろビデオ借りては見、借りては見、としているのだけれど、そのなかで久しぶりに「くわあ、文句なくよかった」と思わされる映画でした。
モロッコにメキシコに、そして東京。乾ききった地面のうえに建つモロッコの土の家や、乱雑で濃密なメキシコの人々や、東京の黒くきらびやかなビルディングや。たくさんの風景や人の顔がどれもみな印象にのこった。どうして僕はこういう土地やこういう人たちに(たとえそれが映画の中であっても)憧れのような、嫉妬の混じったような気持ちを抱くのか。自分が持っていないものを持っていると感じるからなのかもしれないし、もしかすると意識下にある、俗でつまらないオリエンタリズムの現れだったりするのかもしれない*1。
金子光晴の「南方詩集」をドキドキしながら読んでいたときにも似たようなことを考えた。魅力的なのだ、僕には、ひどく。ほんとうは何も知らないだけなのに、都合のいい部分を見ているだけなのかもしれないというのに*2。
いや、なにも東南アジアにいかなくっとも、そこらのいつもは気にしない風景がある瞬間に自分の心の隅っこの方の何かとシンクロすることだってあるし、そこらを歩いている人たちみなにそんな記憶が数え切れないほどの体験が隠されていたりもするのだ。途方もない話。それを考えると胸がつまって、気分が悪くなるほどだ。そうだ、いつだったか近所の喫茶店で、カウンターに座った常連らしきおじさんに話しかけられなぜだか話が弾んでしまったときにも、そんなことを考えたんだった。
それはそうと映画の中身について。
しじゅう息が詰まりっぱなしの、不吉な予感にまみれていた映画だった。ほんとうは人生はドラマじゃないし、うまくいかないことだらけだけどなんの心配もなく笑えるようなことだってあるにはあるはずなんだけど、世の中どうしてこんなにうまくいかないのだろう、なんて考え込んでしまったのがまずひとつ。僕ってのはすごく恵まれている人間だなと思い、おこがましくもそれを恥じたりした。おこがましいにもほどがある*3。
前に感想を書いた「クラッシュ」にしてもそうなんだけれど、僕はこういう「誰も悪くないのに、ちょっとした避けられない心のひずみのせいでうまくいかない、伝わらない。どうしようもない。」みたいな映画が好きらしい。それでいて「人生いろいろあるけど楽しいね」というところがあれば満足してしまうような単純な人間でもあるので、前者を満たしながらも後者の足りない*4この映画については、鳥肌たつような素晴らしいものだと思うけれど、もういちど見たいかといえば、相当精神力に余裕があるときでないと見る気がしないなあ、なんて思いました。
まあでも、そういうのひっくるめて、これはおすすめです。