そろそろ高橋源一郎について一言言っておくか

昨日の日記で中途半端なことしてしまったので改めて。

高橋源一郎というとどうも「室井佑月の元旦那でっていうかバツ3で競馬好きで書評がいちいち信用ならなくて全共闘の残りカスの小うるさいうさんくさいおっさん」みたいなイメージしかなかったりするかもしれませんが僕もたしかにそう思います。が、それはそれとしてこの人の小説は時々ほんとうにすごいので読んだことない人はぜひ読んでほしいなと思うしあまり読んだことない人はもっと読んでほしいと思うことしきりであります。*1

そこで昨日 こんなこと をしてしまったついでにもうちょっと宣伝してみることを心に決めました。しばしお付き合いください。

まずは初期三部作

とりあえず何から読み始めたらいいの?って人はここからどうぞ。79年から5年ほどの間に発表された初期の代表作はいずれも講談社文芸文庫*2で読むことができる。

さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)
「さようなら、ギャングたち」
この小説の発表時の吉本隆明によるコメントが裏表紙に引用されているのでそのまま孫引き。

「現在までのところポップ文学の最高の作品だと思う。村上春樹があり糸井重里があり、村上龍があり、それ以前には筒井康隆があり栗本薫がありというような優れた達成が無意識に踏まえられてはじめて出てきたものだ」

当時どころかこの現代に至っても最高峰であり続けている、文学史に間違いなく残る傑作。僕はこの本をいつも手の届くところに置いて、何かあるたびに読み返している。すみませんバイブルです。*3
解説は加藤典洋

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ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)
「ジョン・レノン対火星人」
執筆順でいえばこの3つの中でいちばん最初のもの。それだけにいちばんエロいしグロい上に、意志というか意欲みたいなものがいちばんあけすけに見える。

『ギャング』は、ある意味で、「文学」に満ちた作品だった。だが、ぼくは、ほんとうは、「文学」など一かけらもない作品で、つまり『戦争』*4でデビューしたかったのだ。

解説は内田樹

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虹の彼方に (講談社文芸文庫)
「虹の彼方に」
長らく絶版になっていて、2006年暮れの復刊の知らせを聞いたときには泣いて喜んだ。いや嘘、そのときは泣かなかった。だけど、わくわくしながら買って読んだあとに復刊されてほんとうによかったと胸にじんわり来てしまったのはほんとうだ。「ギャング」がノコギリで「戦争」が鈍器なら、これはちいさくとも鋭いナイフみたいな小説。
解説は矢作俊彦


なんだかわからないモノの外堀を埋めていく第二期

で、ここから一気に10年が過ぎる。あいだに「優雅で感傷的な日本野球」とか面白い作品がないこともないんだけど、たぶん後回しでかまわないと思う。というのは、このあたりの(それほど多くない)作品のエッセンスはすべて「ゴーストバスターズ」に詰まっているからなんだけど。

ゴーストバスターズ―冒険小説 (講談社文庫)
ゴーストバスターズ ― 冒険小説」
初出は92年の「群像」増刊号で後半は書き下ろし。単行本発行は5年後の97年。この間のタカハシさんの活動はどちらかといえば競馬のほうへ振れているのであんまし知らない。

単行本の帯から引用。

この小説を書き始めたとき、ぼくが決めていたこと――

1.世界全部を入れる
2.歴史全部を入れる
3.愛と友情と哀しみを入れる
4.読んでひたすら面白い
5.なおかつ、今世紀末の日本文学を代表する(!)
6.同時に、今世紀末の世界文学を代表する(!)
7.そればかりか、21世紀の文学を予言する(!)

僕の能力は出し尽くしたような気がする。いま、これ以上のものは書けない。(著者)

おなじみブッチとサンダンス、BA-SHOとSO-RA、ゴーストの孤児、ドン・キホーテと姪、正義の味方タカハシさん、則巻博士とペンギン村の面々・・・・・・といった面々が送る、優雅で感傷的な日本文学。でも絶版なのですね。というわけで僕は復刊ドットコムに登録したのでした。

日本文学の第三期

もともと文学にまつわるエッセイみたいなのが得意なタカハシさんだが、ここ10年はことさらまっとうに日本文学にこだわっている気がする。というわけで、初期三部作をじゅぶんに味わい尽くしたなら次はこれ。

日本文学盛衰史 (講談社文庫)
日本文学盛衰史
読み始めたのがたしか大学入試前夜で、わくわくしすぎて眠れず滑り止めを滑り落ちた、ってのは本のせいじゃなくて自分のせいなんだけど、そんなだから初めて読んだときのことをすごく鮮明に覚えている。日本の小説をかたちづくった人たち(つまり、現代日本の書き言葉をかたちづくった人たち)へのオマージュに満ちた小説で、この人の(タカハシさん)、この人たちの(文豪たち)「ことば」の好きさかげんにすっかりほだされてしまったのだった。

やはりここでも登場人物を挙げてみると、二葉亭四迷に始まり森鴎外石川啄木北原白秋、北村透谷、島崎藤村夏目漱石、伊良子清白、横瀬夜雨、幸徳秋水国木田独歩田山花袋金田一京助樋口一葉、半井桃水、尾崎紅葉・・・(めんどくさくなってきた)・・・などなどなど。お勉強にだってなるけれど、でもこれはなんてったってすぐれた小説なんだ。

うん、いや、ほんとうに、いい年して日本語の可能性というものに果敢に立ち向かっていくタカハシさんに、というよりも、日本語そのものに惚れ直すよ、や、まじで。


ちゅうわけで今のところは、初期三部作+「日本文学盛衰史」(と、外伝としての「官能小説家」)あたりを読んでおけばまず大丈夫なんじゃないかと思うのでした。

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正直言うと、こうして紹介してみようと思い立って本棚を眺めたときに「あれ、こんだけしか持ってなかったっけか」と思った上に、ネットで調べてみてもやはり「あれ、こんだけしか書いてなかったけか」と思ったのだった。小説以外がかなり多いのだなあ。

で、高橋源一郎についてもっと知りたい人はid:tokyocatさんのダイアリ および ウェブサイト *5がすごく面白いのでぜひどうぞ。というか、面白いのは高橋源一郎関連だけじゃないぞ。


・・・・・・と、そんなところかしら。もし少しでも読んでみる気になってもらえたらこんなに嬉しいことはないです。
というわけで復刊リクエストもよろしくな! →http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=43878

*1:あと、似てる作家としてボリス・ヴィアンブローティガンあたりが好きな人はたぶんもうこの人の小説読んでるんだろうけど、ヴォネガットを読んでる人の中にはこの人の小説を読んだことない人がいそうな気がするなと思った。

*2:講談社文芸文庫って表紙はかっこわるいしやけに高いんだけど、巻末の解説および年譜の丁寧さには目を見張るものがあるし、この三部作をはじめとして「死霊」や「万延元年のフットボール」「狂人日記」などやっぱり買わざるを得ない感じで実にずるいシリーズである。

*3:余談だけど、「イキガミ」の騒動を聞いたときに一番最初に思い浮かんだのがこの「さようなら、ギャングたち」のことであったのは僕だけじゃないはず。

*4:すばらしい日本の戦争」のこと。「ジョン・レノン対火星人」のもとになった作品。81年の群像新人文学賞に最終選考まで残るも落選。

*5:いや、どちらも確かにウェブサイトなんだけど、その、どう呼び分ければいいのだ