The Cosmic Wheel Sisterhood(または一人称の占いとしてのアドベンチャーゲーム)

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ストーリーとしては、「とある理由から遠い小惑星に流刑された魔女が、禁忌とされる存在(ベヒモス)と契約を結び、オリジナルのタロットカードの作成、そして友人その他の魔女たちとの会話および彼女らを対象としたタロットによる占いを通じ、魔女たちの共同体(コヴン)、ひいては宇宙の運命を変えていく」といったもの。そんなCosmicでWheelでSisterhoodなゲームなのですが、以下ではWheelの話しかしません。おそらく本作の魅力のメインはSisterhoodの部分にこそあるものの、今回はスルー。


さて、本作のコアループは(合間に回想があったり、後半には多少要素が増えるものの、本質的には)ほとんど下記に尽きています。

  • オリジナルのタロットカードを作成する1。通常のタロットとおなじように、解釈に使えそうな言葉たちがいろいろと付いてくる
  • 流刑先の小惑星に訪れてくる2友人その他の魔女たちと会話し、求めに応じてタロットを使った占いを行う
  • 占った相手はその占いに影響を受け(詳しくは後述)、行動し、ストーリーが次の段階に進む

そしてこの占いの方法は、(正直あまり知らないのだけれど、たぶん)一般的なタロットによるものとそう変わりません。

  • まず、「占いたいこと」を(場合によっては複数)決める。「このブログの未来」とかね
  • デッキをシャッフルし、出てきたカードを(いずれかの)「占いたいこと」に割り当てる
  • この割り当ての際に、「占いたいこと」に対するカードの解釈を「選ぶ」。「このブログは将来、世界人口の8割にのぼる人々から読まれることになる」とかね。「選ぶ」といったとおり解釈は一通りではない一方、いくつかの選択肢に限られてもいる3

ふつうの占いとちがっているのは(ネタバレになってしまうとはいえ、そんなもん「いかにもそういうゲームでござい」というナリなわけだしあらかじめわかるやろということで言ってしまうのだけど)、このときの「解釈する」という行為が、たんに「読む」「見る」のような受動的なものではなく、「書く」に近いものだということです4。必ず当たる(未来なら「必ずそのようになってしまう」、過去であれば「必ずそのようであったことになってしまう」)どころか、「いくつかの解釈から選ぶ」というフェーズの介在によって、「意図にもとづく操作」が可能となっている。異能バトルもので強キャラが持ちがちな運命操作系の能力ってあるじゃないですか、ほぼあれです。


で、こういう「占い」って、ストーリーのあるゲームにおける「選択肢」と相性のよいしくみだなと思ったんですよね。

というのが、(さきの脚注で触れたことと通じて)そもそも占いというものには「相手の求めに応じ、無数の選択肢をランダム要素によって絞り込みつつ、その絞り込まれた幅のなかで相手に対する解釈や助言などをつけていく営み」という一面があります(たぶん)。そしてこの図式は、ビデオゲーム、そのとくにストーリー進行にかかわる部分において、プレイヤーの(あるいはプレイヤーキャラクターの)望みをフリーワードでは表現できず5、限られた選択肢という形で表現せざるをえないという図式と相似しているようにみえるのです6

というわけで、本作はこの相似を(通常の占いよりさらに積極性を強調することによって)うまく活かしているのではないかというのが今回言いたかったことです。そもそも占いを相手から求められている状況があり、そのうえでカードの作成とその場でのシャッフルによって自然にボトルネックを作る。そしてそのなかでプレイヤーが(あるいはプレイヤーキャラクターが)何を望むのかを選ばせる。そういう形になってるんですよね7。つづめるなら、選択肢の狭さに、占いというシステムによる説明をつけている8。あるいは、一人称の占いがアドベンチャーゲームそのものと重なっている。

こういったことがどこまで意図的なものなのかはわからないとはいえ、「(どんな能力をもったって)選べることと選べないことがある」みたいな命題がストーリーの核のひとつであることも鑑みれば、そこまでおかしな「解釈」ではないんじゃないかなとおもうのでした。


落穂拾い:

  • 本文では「うまく噛み合っている」的にポジティブな評価をしたものの、タロット作成〜選択というメカニクス単体での深みはそれほどない。もちろんフレーバーとして、つまりオリジナルなものを作ることによる思い入れこそが重要なわけで、大きな瑕疵とはいえないのだが
    • ひとによってはカードの読みの偏りでエレメントにも偏りが生じたりもするのかもしれないけれど、ふつうはそこまで表面化するものでもなさそう。周回してみると印象が変わったりするのかもしれない(カードの作成も含め、方向性をある程度調整していく、など)
  • 会話の雰囲気は(翻訳もふくめ)とてもよくて、Sisterhood部分が気になるようなひとならきっと好きになれるんじゃなかろうか。冒頭でも述べたとおり、本作の魅力のメインはあくまでそこだとおもう
  • 地味に音楽の使い方がめちゃくちゃいい。プレイヤーの心を大きめに動かす部分はそこがほぼ一手に引き受けていたと感じた

  1. 背景、メインの絵、サブの絵を選んで好きな位置に置いたり組み合わせたり……みたいな感じ。作成に際して「エレメント」(おもに占うことによって獲得できる)を消費するため、一度にたくさんのカードを作ることはできない。したがって、ゲームの進行にあわせて徐々にデッキの枚数が増えていくことになる。
  2. 流刑ということでもともとは他者の来訪も禁じられていたのだけれど、もろもろあってチュートリアル後すぐにそれが許されるようになる。
  3. ここで提示される選択肢は作ったカードのデザイン(ひいてはそれに紐付けられた言葉たち)によって異なる。
  4. 「ちがう」とはいったものの、後述するとおり、おそらくふつうの占いにもある程度そういう部分があるかもしれません。
  5. 生成AIの発展により試みが加速しているところと承知していますが、すくなくとも2023年現在では「現実的にはできない」という認識でよいと考えています。
  6. これを避けるためのひとつの方向性として、直截に選択肢を選ばせることを含めたさまざまなゲーム内操作のなかに分岐フラグを紛れ込ませるような方策がいろいろ試みられてきたんじゃなかろうかという思いはあるのですが、アドベンチャーゲームにあまり詳しくないのでここでは踏み込みません。
  7. とはいえここで白状しておくと、本作には、結末が大きく変わるような「大きな分岐」と、大筋にはかかわらない「細かな分岐」があり、前者に関しては占いによらない選択肢の提示の比重が相応に高そうにもみえます(リプレイアビリティを考慮しているのかもしれない)。
  8. もちろんけっきょく、絞り込まれた幅のうちでの稠密さは依然失われたままなのですが、最終的に言語でやりとりすることを鑑みれば、「程度の問題」にまで矮小化してもかまわないのではないか。