Inscryption

君も、私と同じぐらい戦いを楽しむことになるだろう。

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へえええぇぇぇぇぇ……。あんた、Inscryptionをやったんだ。やったんだね。いいよいいよ、言わなくてもわかってる。

でも、どうしてだい? べつにそんなもの、しなくったってよかったのに。だってそうだろう? わざわざ自分を山小屋に閉じ込めて、ゲームマスターの言うことに従って……それからまじまじカードを眇めて、ちまちまトークンを数えて。しゃっちょこばった身体を伸ばしたくなったんなら、ゲームマスターの台詞にイラついたってんなら、いつでもすぐにやめちまえるってのに……辛気臭いカードもトークンもうっちゃってさ。カウチでポテトでもつまんでたほうがよかないかい? なのにあんた、「最後」までやったんだろう?

だんだんとルールがわかってきて、パターンが読めてきて、あんたなりに「強い」と思える手札が揃えられるようになって……いいね、悪くない体験さ。それは認めよう。だけど、それで……? それでどうするんだい? 終わっちまえば、そんなもんぜんぶパアだってのに。ゲームマスターが「やめだ」と言えば、それでぜんぶパアだ。知ってるよ、あんたはいつだってその予感に怯えてる。だいたい、そうやって「強く」なることだって、ゲームマスターがね、そんなふうにならせてやるよって、お情けのおかげだろうに。まあ、あんたが途中で飽きたって、同じことかもしれないけどね。

ルールといえば、そうさね、覚えてるだろうと思うけどね、「力の行使には代価が必要」ってルールがあったはずだ。だけど、ほんとうに? だって、現実には、べつにさ、そんなルールなんてないだろう……? あんたはなんら代価を支払うことなく暴力を振るっているし、振るわれている。わかってるはずさ。なのにあのゲームマスターは……いやいや、そんな顔をしなさんな。そうじゃないのがゲームってもんだと、そう思ってるんだろう? それとも、無制限に行使できるって、そんな現実が怖いのかい? そんなわがままに、付き合ってやってんだか、それとも、付き合ってもらってんだか。

それに、「最後」だってそうさ。「最後」ってなんなんだい? その、ゲームの、ことが、全部、わかった……って? いいよ、言わなくてもわかってるよ。ほんとうに「最後」までは解いちゃいないんだろう。まあまあ、それは無理ってもんだ。せいぜいが、「やった」っていうだけのことさ。でも、どうしてだい? 「最後」まで見届けてやろうって、あの意気込みはどこへ行っちまった? たんに面倒臭かったってのかい? それとも、そこまで従うのが、それはそれで怖かったって? まあ、どっちでもいいけどね。ともかく、あんたが自由を行使できてよかったよ。あんたはちゃんと、自分の手で、ぜんぶをパアにしてやったってことさ。おかげで、あんたはお気楽で無軌道な現実に、また戻ってこられたわけだ。

まあ、これに限らないさね。あんた、ネットワークの向こうの誰かさんをぶちのめしたいからゲームやってんの? あんた、誰かさんが作り込んだ複雑な掌のうえで踊りたいからゲームやってんの? あんた、誰かさんに成り代わって物語を辿りたいからゲームやってんの?

……え? まだやってない? ほんとうに? ……そうか……そうか。じゃあ、あたしがいま言ったことはぜんぶ忘れておくれ。……わかったね、約束だよ。